このページでは、MLBを理解する上で不可欠な用語の1つサービスタイムを紹介します。
MLB公式サイトの解説を中心に見ていきたいと思います。
①サービスタイムとは
選手はMLB30球団の25人ロースターに登録されているまたはMLB30球団の故障者リストに登録されている日は1日ずつサービスタイムを受け取ります。イメージとしては、ゲームのログインボーナスが分かりやすいと思います。ちなみにサービスタイムの取得に関しては試合の出場の有無に左右されませんから、休養日であろうと先発投手で自分が投げない場合でもチームの25人ロースターもしくは故障者リストに入ってさえいれば自動的に貯まって行きます。
2019年ですと開幕から閉幕までMLBで過ごすと186日分のサービスタイムを取得できました。現在の2021年までのMLB選手会と機構側の協定では薬物摂取で出場停止を受けた場合最終的に出場停止試合数が20以上減らない限り出場停止期間はサービスタイムを得ることが出来ません。
②FAになるためには
サービスタイムは172日分を蓄積すると1年分にカウントされます。これが6年分蓄積すると選手はそのシーズンの終了時にFAになる権利を得ます(翌年以降の契約を所属球団と結んでいる場合は除きます)。逆から考えると25人ロースターあるいは故障者リストに172日いても180日いても186日いてもサービスタイムとしては1年分となります。
③年俸調停権を得るためには
サービスタイムが3年分蓄積すると選手はそのシーズンの終了時に年俸調停権を得ます。またシーズンをサービスタイムの蓄積が2年以上3年以下で終えた選手でかつそのシーズンに86試合以上のサービスタイムを蓄積した選手を対象とする年俸調停権を得ます。対象者上位22%(基準はサービスタイム)に入った選手はサービスタイムの蓄積が3年に到達していなくても年俸調停権を得ることが出来ます。これは通称“スーパー2”と呼ばれる仕組みです。
④その他
サービスタイムは以上の事以外でも重要になります。例えば以前紹介した10-and-5 rightsはサービスタイムを10年以上持っていることが適用条件の1つになっています。
⑤サービスタイムの操作とは??
サービスタイムに関しては毎年のようにシーズン初めに論争が起きます。その論争は球団側のサービスタイムの操作の是非に関するものです。ここではサービスタイムの操作について説明したいと思います。
上記のようにサービスタイムが6年分貯まると選手はFA権を取得します。競争が激しいMLBでは当然ながら全ての選手がFA権を取得するまでサービスタイムを貯められる訳ではありません。
しかしMLBに昇格する以前から高い評価を受けて昇格後も順調にキャリアを積んでいく選手の場合は、基本的に一旦MLBに昇格すると毎日サービスタイムが貯まっていき成績が良いのでマイナーに降格することもありません。したがってサービスタイム1年分に相当する1年172日のサービスタイムを6年分つまり172×6=1032日貯めて晴れてFAになります。
ここから論争の具体的な内容について書きますが、分かりやすくするために開幕戦でMLBデビューを果たす有望選手を想定してみます。彼はマイナー時代から評判でデビュー後も瞬く間にレギュラーを獲得し大活躍しました。彼はチームの主軸となり降格させる理由など当然ありませんから、このまま行けば6年目のシーズンを終えた後にFAとなり他球団との契約も可能となります。
しかし球団はある方法を使えばこのスター選手を6年ではなく7年チームに留めておくことが可能となります。それは1年目の開幕から約15日の間ではデビューさせないというものです。その代わりに彼を開幕時からしばらくはマイナーに降格させて15日程度経ったタイミングで昇格させるのです。
いきなり15日程度という具体的な数値が出てきて困惑されたかもしれませんが、開幕からMLBで起用した場合と15日程度経ってからMLBで起用した場合のサービスタイムの合計を比べればその数字の意味が分かるかと思います。
パターン1:開幕からMLBで起用してその後降格がない場合のサービスタイムの合計
172(1年目)+172+172+172+172+172=1032日
となり選手はFA権を取得します。
パターン2:開幕から15日程度経ってからMLBで起用してその後降格がない場合のサービスタイムの合計
171(1年目)+172+172+172+172+172=1031日
となりFA権取得に必要なサービスタイムが1日足りないこととなり、選手は6年目終了時にFA権を取得できません。
つまりMLBデビュー後6年間のサービスタイムの合計を1031以下にすれば球団は選手の保有権をもう1年伸ばすことが出来るのです。そしてデビュー後チームの主力となるような選手が降格することはMLBではほとんどありませんから、2年目以降のサービスタイムは毎年最大値である172となるのが既定路線です。
そうなると1年目のサービスタイムを1031-172×5=171日以下に抑える必要が出てきます。1年間MLBの25人ロースターor故障者リストに在籍した場合は186日のサービスタイム(厳密には172日以上のサービスタイムは全て172日とされる)を獲得できます。
したがってチームが選手の1年目のサービスタイムを171以下に抑えるためには、186-171=15日間MLBの25人ロースターor故障者リスト以外(つまりマイナー)に選手を登録すれば良いのです。
非常に長い説明になりましたが、以上のような理屈で球団は選手のサービスタイムを操作しています。こんな露骨なサービスタイムの操作が本当にあるのか?と思われる方もいるかもしれません。
しかし現在カブスに所属するK・ブライアントは2015年のスプリング・トレーニングでOPS1.652と猛打を振るいマイナーに送る必要はないように見えましたが、チームは彼を3Aに送りました。その後4月17日にMLBデビューを飾ります。この露骨なサービスタイムの操作に対してはブライアントの代理人であるS・ボラスが猛抗議をしたという事もありました。
その後もV・ゲレーロJr.(TOR)やR・アクーニャJr.(ATL)に対してもチーム側は同様の対応をしており毎年のようにこのサービスタイムの操作が行われているのが現状です。
今回はMLB用語の中で最も重要な1つであるサービスタイムについて解説しました。
参考リンク
Photo BY
Minda Haas Kuhlmann