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31日午前7時に、ジーナ・ルノーは4歳の息子ヘンリーと共にヒューストンの自宅の階段を下りた。 彼女が目覚めたとき夫のジェフは寝室にいなかったが、すぐにジーナとヘンリーはその理由を悟った。 ジェフ・ルーノーはアストロズのオフィスにいて、徹夜で同僚と共にトレード案を練っていたのだ。

 

アストロズのGMとして8年目を迎えるルーノーは時にその冷徹なやり方ゆえに批判を受けることもあったが、球界最弱のチームを2017年のワールドチャンピオンに変えてみせた。そんな彼はこの夏どこに行っても同じ話を聞いた。野球界で史上6チーム目の3年連続100勝を達成する勢いのチームで、球界最高の先発投手コンビのジャスティン・バーランダーとゲリット・コールがいるのに、アストロズは先発投手を獲得するべきだという話だ。そして実際その意見はルーノーにとっても正しい意見だった。

 

ルーノーが獲得したバーランダーとコールは、アストロズ移籍後の成績のほとんどのカテゴリーで1位と2位の座を争うほどの活躍を見せている。さらに昨年オフに加入したウェド・マイリーも、450万ドルの契約額を遥かに上回る価値を提供している。

 

しかしマイリーに続く先発4番手の投手がアストロズにはいなかった。地区優勝を達成するだけならば、新たな先発投手は必要ないとルーノーは考えていた。ルーノーが求めている投手は、最大7試合戦うプレーオフのシリーズで1試合か2試合に送り出せる存在を意味する。つまりマイリーと同じか彼以上の投手が欲しかったのだ。

 

アストロズのニーズに合致する先発投手の候補は少なく、さらにアストロズの獲得候補リストからはどんどん選手が消えていった。マーカス・ストローマンはメッツに移籍してしまい、ジャイアンツやメッツはマディソン・バムガーナーやザック・ウィーラーの放出案を引っ込めたとルーノーは感じ取っていた。

 

さらにアストロズはチームのプロスペクト上位3人であるヨーダン・アルバレス、フォレスト・ウィットリー、カイル・タッカーを放出する気が一切なかった。アストロズとトレードについて話し合う時に、この3人の事を問い合わせる事すらしないチームもいた。また数チームが問い合わせた場合も、アストロズはすぐにその問い合わせを拒否した。つまりアストロズにとって新たな先発投手を獲得するために支払える対価は、バーランダーやコールの時と同様にTOP3以下の選手に限定されていたのだ。

 

730日トレードデッドラインまで24時間に迫ったタイミングで、ルーノーはGM補佐(当時)のブランドン・トーブマンのオフィスで、その他数人と共にトレード案を練っていた。しかし大きな動きが起こる可能性は非常に低いと彼らは考えていた。そんな時だった。チームのオーナーであるジム・クレーンがトーブマンのオフィスに入ってきたのは。

 

「グレインキーはどうだ?」クレーンの言葉にルーノーらは驚いた。確かにアストロズの編成チームの全員にとって、グレインキーはお気に入りの存在だった。アストロズの内部データによると、チームを2019年にワールドチャンピオンに導く確率をグレインキーと同じくらい引き上げられる存在は他に1人しかいなかった。しかしグレインキーは球界屈指の高給取りであり、アストロズにグレインキーの契約を引き受ける余裕があるようには見えなかった。

 

「グレインキー獲得の交換相手が合理的なものならば、資金面の問題は解決できる。」とクレーンは笑いながら言った。

 

ルーノーはすぐにDバックスのマイク・ヘイゼンGMに電話をかけた。彼らは初夏にロビー・レイのトレードを話し合っていたが、話はそれほど盛り上がらずに終わっていた。今回のルーノーからのトレード案に対するヘイゼンの態度は明確だった。ヘイゼンは、Dバックスの長期プランに合致する見返りを出さない限りグレインキーを放出しないという意思を見せた。それどころか彼はアストロズに要求する4人のプロスペクトの名前をはっきりと提示してきた。Dバックスはその4選手を気に入っており、長年にわたって調査を続けていたのである。

 

アストロズは過去のデータに基づき選手の未来を予測しようと努めている。そんな彼らから見ても、グレインキーは35歳といえパフォーマンス面と健康面両方で素晴らしい選手だった。しかしヘイゼンの要求はあまりに高かった。ルーノーはヘイゼンとの電話を切った時、グレインキーが24時間後にアストロズの選手になっている可能性は10%ほどしかないと感じた。それでも彼は、ほとんど睡眠を取らずにこのトレードの可能性を探る事は意味があるとも感じていた。

 

ヘイゼンがいるフェニックスとルーノーがいるヒューストンは2時間時差がある。ルーノーは朝の早すぎる時間帯にヘイゼンに連絡を取りたくなかった。なぜならそんな時間に連絡すれば、ルーノーの必死さや焦りをヘイゼンに察知されるからだ。しかし結局ルーノーはトレードデッドラインの4時間ほど前にヘイゼンにトレード案を送った。アストロズからのオファーには、ヘイゼンが求めた4人の内コービン・マーティンとセス・ビアーが含まれていた。その2人とヘイゼンの要求より劣る選手を3番目のピースに加えて、グレインキーの残りの給料をDバックスの希望より負担するようにアストロズは求めた。

 

ヘイゼンの答えはノー。

 

その後給与面の問題はグレインキーの年俸の支払いを繰り延べする事を通じて、解決する事ができた。しかし問題は残されていた。ヘイゼンがグレインキーの見返りに要求しているプロスペクトを放出する事を、アストロズ側が納得できていないという事だ。

 

そしてルーノーはトレードデッドラインの1時間前に、最後にして最高のオファーをヘイゼンに提示した。編成チームのスタッフの中には心配する者もいたが、JB・ブカウスカスをグレインキーの見返りに加えたのだ。ブカウスカスはヘイゼンが希望した4選手の中に含まれていた。アルバレスはプロスペクトランキングから外れる事が確定的な状況であったので、事実上アストロズはチーム内の3位・4位・5位のプロスペクトを1回のトレードで送る事にルーノーは同意したのだ。

 

午後230分—デッドラインまで30分の所で、Dバックスはアストロズのオファーを受けてトレードを前向きに進める方針を示した。

 

ちょうどその頃ルーノーの携帯電話にオーナーのクレーンから電話がかかってきた。クレーンはルーノーにトレードの進捗を確認するために電話を掛けてきたのだ。一連の説明を聞いたクレーンは「4人目の選手の候補は誰だ?」と聞いた。

 

「ジョシュ・ロハスです。」とルーノーは答え、それに「ジョシュ・ロハスとは誰だ?」とクレーンは応じた。

 

ロハスは、ルーノーの説明に基づくと、今年AAAOPS1.000に近い成績を残している選手である。ベースボールアメリカ等の第三者機関によるプロスペクト評価ではリスト入りしていない事も多いが、球界内部でのロハスの評価はそれよりもっと高いとみて間違いなかった。実際に他球団がアストロズにトレードの問い合わせを行う場合、ほとんどのケースでロハスの名前が出た。またユーティリティ性が高く、最悪でもユーティリティプレイヤーになれる逸材だ。

 

「分かった。それで君はドラフトで下位指名の未来のユーティリティ候補のために、グレインキーのトレードを保留しているのか?」とクレーンは言った。

 

ルーノーはクレーンとの電話を切った後に、グレインキーのトレードに関する最後の調査を行なった。確かに最終的にトレードを決めるのはルーノーだが、彼は同僚との意見交換を行った。そして30歳のアダム・ブロディというアナリストの話を聞いてから、一気にロハスをトレード案に含める方向に話が進んだ。ブロディは「確かにグレインキー獲得の代償は大きい。しかしグレインキーの投球のクオリティは高いし、さらに彼を2年間保有できる。見返りに合った価値があるトレードです。」とルーノーに伝えた。

 

トレードデッドラインまで残り23分の午後237分になった。ルーノーはヘイゼンに電話を掛けたが繋がらず、メッセージを送った。メッセージの内容は、アストロズはDバックスとの取引に応じるつもりだというものであった。ルーノーはヘイゼンが他球団にグレインキーを放出した事を想定して、返事が返ってくるまで20分もあったように感じた。実際には90秒でヘイゼンはルーノーに返事を返してきたのだが。

 

了解。それがヘイゼンからのメッセージだ。

 

実際にはヘイゼンとDバックスは、アストロズ以外のチームとグレインキーについてトレードの話を持っていなかった。ヘイゼンは「残り30分の時点で、アストロズにトレードするか放出しないかの二択だった。」と後に明かしている。

 

両チームともに祝っている時間はなかった。メディカルレポート等の必要な書類を準備しなければならなかったし、トレードデッドラインが近づいていたので他のトレードもまとめなければならなかった。アストロズはアーロン・サンチェスを獲得するためにブルージェイズにデレク・フィッシャーを放出したし、Dバックスはグレインキーの穴を埋めるためにマイク・リークのトレードをマリナーズと急いでまとめた。

 

さらにもう1つの問題が残っていた。なんとその日グレインキーはニューヨークのヤンキース戦のデイゲームで投げていたのだ。雨の影響で試合は一時中断していた。その中断時間の間で、両チームのトレード案はまとまった。午後253(トレードデッドラインまで残り7)に、ルーノーはグレインキーが降板したのを確認して最後のメッセージをヘイゼンに送った。

 

グレインキーのトレードが決定した事で、両チームのGMは関係するプレーヤーに連絡をして彼らの家探しを始めた。ヘイゼンは降板したグレインキーと監督のトレイ・ロブロ呼び寄せて、彼らにトレードの決定を伝えた。

 

アストロズの監督AJ・ヒンチはクラブハウスのすべてのテレビの電源を切り、グレインキーが新たなチームメイトになったことを選手たちに伝えるために急いだ。しかし多くの選手はTwitterをスクロールして、デッドライン後のサプライズを探していた。 「グレインキーのニュースが決まったとき、誰もが興奮していた。」とバーランダーは言う。

 

その後2ヶ月間バーランダーとコールは素晴らしい投球を続けていき、ほぼ全てのカテゴリーで2人のうちどちらかがトップになった。今年のサイ・ヤング賞をどちらが受賞するかは分からないが、間違いなく2人のうちどちらかが受賞するのは決定的である。

 

またグレインキーはアストロズ移籍後の10登板で、8勝1敗防御率3.02の成績を収めた。まさに移籍後のグレインキーは、彼を獲得する前にアストロズが期待した通りの成績を残してみせた。

 

忍耐力とアストロズのスカウティング、選手育成能力のお陰で、ルーノーはGMにとって最も困難なミッションを達成したように見える。つまり彼はグレインキー獲得を通して、アストロズを短期間限定ではなく長期的に成功するチームにするというミッションを達成したのである。

 

参考:https://www.si.com/mlb/2019/10/01/houston-astros-zack-greinke-world-series

Photo BY Ian D’Andrea