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近年MLBではプロ経験がないコーチや大学野球のコーチがMLBのチームになる事例も増えてきています。そんな傾向の裏にある現代のMLBのコーチに求められる能力は何かを解説した記事を今回は紹介したいと思います。

 

それは2018517日にSPORTTECHIEに掲載された「Throw BP, Know SQL: The Modern Baseball Coach’s Job Description」という記事です。概要を伝えるために省略している部分も多いので、是非元の記事もお読みください。

 

サム・フォルドは8年間MLBでプレイして昨年の秋に引退した。彼はその後フィリーズに新たに創設された役割であるメジャーリーグ選手情報コーディネーターに就任した。

 

フォルドは球界でも屈指の高学歴な選手として知られている。スタンフォード大学で経済学の学士号を取得。その後メジャー昇格前は統計学の修士号を取得する為に、勉強に励んでいた。また彼は対戦相手の研究にも熱心に取り組んでいた。一般的な指標だけでなく、対戦相手の4シームのフライ/ゴロ等若干細かい数字にも精通していた。

 

このようなユニークな経歴のお陰で、彼は選手達に複雑なデータを共有するという仕事をするにはピッタリの存在になった。

 

彼が伝えたいメッセージはフィリーズの選手達に着実に浸透しつつある。例えば野手は、コーチが強調する一方で理解するのが難しいwRC+wOBAといった指標での成績を伸ばしつつある。また投手陣の中には自身の球種のレパートリーの中で、見落とされていた球種が実際にはとても効果的な球種であると知り驚いた選手もいる。

 

フォルドは野球のコーチの新たなタイプの1人で、その役割はデータ分析を選手達に上手く伝える事にある。2015年にStatcastが導入されて以降、フィールド上で起こる事に関してより多くのデータを収集する事が可能になった。今やデータは打順の組み方から選手の評価まで、全ての球団の意思決定を支配していると言える。しかしその知識が、必ずしも現場まで行き届いているわけではない。

 

(チーム編成を担う)フロントオフィスの人達は彼ら自身がデータを見るのにかなりの時間を割いているから、野球に関わる全ての人がデータを理解していると思い込んでいる。しかし選手達の多くは詳細なデータを自ら調べない限り、データについて大まかにしか理解していない。」とフォルドは語る。

 

私は3年前に球界関係者にアンケートを実施した。その結果、フロントオフィスのメンバーが扱う高度なデータのうち選手に届いている情報は非常に少ないということが判明した。パイレーツが情報共有には最も優れていて、データを重視する事で有名なアストロズやレイズも選手と上手く情報を共有出来ていた。

 

しかし現在2018年には、データの知識を持つコーチの役割が激増している。例えばレイズはメジャーリーグフィールドコーディネーターとしてロッコ・バルデリ(現ツインズ監督)を採用している。レイズでバルデリが担うような役職を担当するスタッフをドジャース、アストロズ、レッドソックス、パイレーツも採用している。

 

2016年にアストロズは、チーム傘下のマイナーのチームでプレイヤーデペロップメントを専門にするコーチの役職を設置して、Tommy KawamuraAaron DelGiudice を採用した。彼らに加えて、GMを務めるジェフ・ルーノーの右腕的存在であるシグ・メジャルらもマイナーリーグでの選手育成に関与している(メジャルは2018年オフにマイク・イライアスGMと共にオリオールズに移籍して、現在はGM補佐を務めている)

 

アストロズのジェフ・ルーノーGMによると、現在コーチを募集する際に条件として提示する特徴は次の2点である。

①打撃投手を務められること

SQLを理解していること(SQLとはデータベースを管理する為に使われるデータベース言語)

 

この2つのスキルを兼ね備えている人物は僅かしかいない。

 

アストロズにここ数年で新たに採用されたコーチの仕事は、ヒューストンにあるアストロズのフロントオフィスから生まれたイノベーションを取り入れ、マイナーリーグでも高度なデータを使いこなす環境を整備する事であった。アストロズ傘下のマイナーのチームが“実験室になり、さまざまなアイデアの有効性をテストし、MLBに到達する前に選手達とスタッフに複雑な概念を理解させるのを手助けしたとルーノーGMは語っている。

 

近年は大量のデータがあり、選手を圧倒させるほどである。実際にルーノーGMも得られる情報が過剰だと認めている。選手達に高度なデータを伝えるためのプロセスはフロントオフィス→コーチ→選手の3段階であり、これは基本的に今も昔も変わらない。しかし現在ではこのプロセスの中で、統計学に精通したコーチあるいは選手と直接関わるアナリストの存在感が増しつつある。

 

特にその最新のデータによって今まで正しいと考えて実行してきた事を改める必要がある場合には、選手は最新のデータを伝える人物を信用する必要がある。だからこそ多くの球団は選手と信頼関係を築いているコーチ達にその役割を任せてきた。しかし記事の初めに見てきたフィリーズやアストロズ、パイレーツはそれと異なり、選手とアナリストを、コーチを介さずに直接繋げようとしているのである。選手達から何か質問が出れば、アナリスト達が直接にその疑問を解決するのだ。

 

ナショナルズのデイビー・マルティネス監督は「可能な限りすべての情報を使用している。また選手に提供する情報の量は各人で分けている。多くの情報を欲しがる選手もいれば、それほど情報を求めない選手もいる。」と語る。

 

チームでクローザーを務めるショーン・ドゥーリトルは、彼が最も興味を持っているのはリリースポイントに関するデータだと発言している。シーズン序盤で好投を重ねた後に、彼はコーチにその試合の時のリリースポイントを基準にするように伝えた。現在の彼は自身のリリースポイントが基準から外れていた場合に限って、データをチェックするようにしている。

 

「データからのフィードバックは気に入っているよ。マウンドで感じた事とデータが一致するかを確認したいと思って使っている。」とドゥーリトルはコメントしている。

 

また対戦相手に関わらず、最も役に立つ事は定量的なデータを定性的なデータに変える事だともドゥーリトルはコメントしている。

 

例えば特定の打者がストライクゾーン外のボールをどれだけ空振りしたかのようなデータではなく、得点圏の時には積極的に打ちに行くというデータが役に立つという事である。

 

球界に入る前にはエンジニアやスタートアップ企業の幹部、経営コンサルタントとして働いていたルーノーは、球界で求められるコミュニケーションが他の業界と少し異なる事に気付いた。

 

「球界で働き始めて数年間のうちに、他の業界で求められるような事実とデータに基づく方法で周囲の人々を説得する従来の方法が重要ではないと悟りました。球界ではそれぞれの状況について話す必要があり、周囲の人間と密接に繋がる事が求められます。そして周囲の人達に自身の考えを納得してもらい、最終的にその考えを彼ら自身のものにしてもらう必要があるのです。」

 

またかつてアスレティックスでボブ・メルビン監督のもとでプレイしたドゥーリトルは、選手達がメルビンのもとでプレイする事を好きだった理由を「メルビンは選手とのコミュニケーションに長けていて、彼が下す決定の理由を分かりやすく伝えてくれるからだ。」と明かしている。

 

参考:Throw BP, Know SQL: The Modern Baseball Coach’s Job Description

Photo BY: WEBN-TV